前回までのコラムで持ち家はお金がかる、ということについて考察を加えてきました。「家を買う」ということは、言うまでもなく大方の人にとって一生に一度か二度、買い物の金額としては恐らく最大の出費を伴うものとなります。
持ち家を持てば、あとはせっせと借金を返して、退職後は我が家で余生を楽しむ、というシナリオが成り立っていたのもバブル崩壊までの土地神話が成り立っていた頃までの話です。こうしたシナリオが当てはまらない今だからこそ、私たちは人生100年時代を迎えるに当たり、思い悩むわけです。
ここで、今回のテーマである「持ち家の価値」について考えてみたいと思います。自分や家族が住む家の価値は、次の3つを意識することが必要です。第一は、「住む価値」です。これは、快適で心豊かな生活を行う上で何よりも大切なものです。毎日、心安らかに寝て起きて、ゆったりと家で過ごす。時には、庭でのガーデンパーティ、趣味のガーデニングや音楽鑑賞などを自宅で楽しむ。それは、人生を豊かにする上で最も大切な価値観と言えます。そして、第二は、「市場価値」です。それは、持ち家を不動産市場で買う時の値段、売る時の値段といえます。つまりは、今住む家を金銭価値に換算したものといえます。そして、第三は、「賃貸価値」です。いまの我が家を人に貸したら一体いくらで貸せるのだろうか?月10万円なのか?20万円なのか?我が家を人に貸さないよ、と思ってらっしゃる方も賃貸価値を知っておくことは、これからの選択肢を広げるためには重要なことなのです。
私たちが持ち家を考える上で、もっとも悩ましいことが、この3つの価値が、一様に相関していないことが挙げられます。それは具体的に言うとこういうことです。たとえば、都心に4000万円のマンションがあるとします。同じく4000万円の予算で少し郊外に戸建ての家があるとします。この二つの不動産は、市場価値という意味では、同じ4000万円です。しかし、この時点でこれら二つのマンションと戸建て住宅は、「住む価値」、「賃貸価値」は同じではありません。例えば、都心のマンションの月額賃料が月15万円(年間180万円)、郊外の戸建てが月12万円(年間144万円)とした場合、都心のマンションの方が「賃貸価値」は高いことになります。一方で「住む価値」を見てみると、都心のマンションはたとえば、専有面積40平米、1DK。郊外の戸建ては、駅から少し遠い(徒歩20分)ところにあるものの専有面積90平米で3LDK,15畳ほどの広めのリビングにガーデニングのできる庭付きの家となります。
「住む価値」は、もちろん、そこの住み手が一人なのか家族持ちか、職場はどこか、趣味は何か等によって全くその価値基準は異なるわけですが、郊外の戸建てに価値基準を置いている人が都心の狭いマンションに住む価値を見出すとは到底思えないわけです。
ここに多くの人は大きなジレンマを抱えることになります。なんとなれば、我が家を選ぶ基準は「住む価値」を第一に置きたい。しかし、市場価値や賃貸価値を全く無視することもできません。では、これら3つの価値観の間でどのように調整し、持ち家を選択していったらいいのか?次回も引き続きこうしたことについて考察していきたいと思います。