最近、中高年の人たちが大学院や専門学校に通うのがブームとなっています。かつては生涯学習という括りで語られ、最近はリカレント教育という言葉で表現されるようになっています。リカレント教育のリカレント(recurrent)とは、反復とか回帰が語源です。つまり、高校や大学を卒業して社会人になった後、再び、学校に復帰してなにがしかの教育を受けるということで、人生100年時代に相応しい教育のあり方と言えるでしょう。
私が20代後半の頃にビジネススクールで学んだ頃は、(私も含めて)企業からの派遣留学生が大半でした。企業派遣の学生の大半は、企業研修の延長上にこうしたビジネススクール留学を位置づけていたため、卒業後は当然のように派遣元の会社に戻り、ほとんどの人は留学前と後でそれ程仕事内容が変わったわけではなかったように思います。
しかし、あれから30年ほど経った現在、私自身がビジネススクールの教壇に立つ身になって学生たちを見回してみると、企業派遣の学生の姿はほとんどいないことに気づきます。今、ビジネススクールで学ぶ学生のほとんどは、自分の意志で自分のお金で学ぶ社会人となっています。その年代は、若い人でも20代後半、年長者では50代半ばから60代。平均年齢は30代半ばから40代前半といったところでしょうか。
では、彼ら彼女らは、何を目的にビジネススクールに入学してきたのでしょう。授業の後の懇親会などで彼ら彼女らと話をすると実に興味深いことに気づきます。
「君は、どういう理由でビジネススクールで勉強したいと思ったの?」「いえ、特にこれという理由はないんですが、私は技術屋なので、もう少し経営の知識を習得したいと思いまして。」「できれば、将来中小企業診断士として独立したいので、まずは経営学を体系的に学ぼうと思いました。」
彼らの話を聞いていると、いかにも日本人的な謙虚さで、たとえば絶対にキャリア転換をしたいんだ!という感じでもありません。私にとっては意外でした。 そこには、欧米のビジネススクールで学ぶ学生が人生をかけて学びに来た!という気迫とは違った、違和感を感じました。
しかし、しばらくして私が気がついたことは、国内でビジネススクールに入学する(とりわけ)日本人の社会人学生は、ビジネススクールに入学する動機は明快でも、卒業後のキャリア戦略は、非常にあいまいな学生が多いのではないか、ということでした。このことは、たとえば、ロースクール(法科大学院)の場合にもいえるかもしれません。日本で弁護士になるには司法試験に合格し、司法修習生としての経験を積み、弁護士資格を取得することが必要です。しかし、弁護士資格を取得することは始まりに過ぎないにも関わらず、「稼げる弁護士」、「活躍できる弁護士」を目指すためのキャリア戦略をきちんと立てている人は残念ながら非常に少ないのです。
リンダ・グラットンは、「ワーク・シフト」のなかで「キャリアの脱皮を成功させるコツ」として三つを掲げています。その第一は、新しいチャンスが目の前に現れたとき、道の世界にいきなり飛び込むのではなく、新しい世界を理解するための実験をすること。第二は、自分と違うタイプの大勢の人たちと接点をもち、多様性のある人的ネットワーク(ビッグアイデア・クラウド)を築くこと。第三は、本業をやめず、副業という形で新しい分野に乗り出すこと、です。
そこには、リスクを見据えながら、新しい世界で生きるためのノウハウやスキルを試行しながら獲得する「キャリア転換」のための智恵が詰まっているように思うのです。