皆さんは、「ギャップイヤー(gap year)」という言葉をご存知でしょうか?
ギャップイヤーとは、高校卒業から大学入学まで、あるいは大学卒業から大学院進学までの一種の空白期間のことを指すものです。もともとはイギリスが発祥で欧米の大学・大学院に拡がった慣習です。欧米の学校では、通常、初夏に卒業して秋に入学するのですが、この間の3か月間に国内外でボランティア活動をしたり、NPOや企業でインターンをしたり、時には放浪の旅や趣味の勉強をして見聞を広めたりするのです。最近では、入学前だけでなく、就職前や転職前、時には会社を休職して2年間程の長い期間の活動もギャップイヤーと呼ぶようです。
ギャップイヤーは、人によっては「寄り道」と見えるのかもしれませんが、これこそがリンダ・グラットンのいう「エクスプローラー(探検者)」に誰もがなれる期間だと言えるのではないでしょうか。
彼女のもうひとつの著作である「ワーク・シフト」では、「連続スペシャリスト」というキャリアが紹介されていますが、これはスペシャリストでもなく、ジェネラリストでもない、新しいタイプの人材像を指します。「連続スペシャリスト」は、会社の中だけで通用する専門知識やスキルではなく、人材マーケットや社会で高い価値と評価される専門知識とスキルを繰り返し発揮できる人材像なのです。
こうして考えてみると今まで、日本で典型的な年功序列の会社人生を送ってきた多くの人たちにとっては、実は大変に敷居の高い人材像なのかもしれません。なぜなら、こうした連続スペシャリストに求められる専門知識やスキルは、長年、ひとつの会社や組織に留まりながら会社人生を送っているだけでは決して身に付けることができないからです。
長年、ひとつの会社や組織一筋で働いていると、会社内の暗黙のルールや人間関係などに長けていって、いわゆる過剰適合というものが起こります。会社で長年働き、50代になって早期退職しても次の職がなかなか見つからない、という事実を最近よく耳にしますが、これは会社の内外で求められる専門知識やスキルの違いも大きな原因となっています。
「ギャップイヤー」とは、もともとは大学や大学院進学を前にした若者の特権として定義づけられた慣習ではありました。けれども、人生100年時代においては、それこそ「老若男女」すべての人々が違った経験と違った視点の獲得を通じて、いつでも何歳になっても自分探しをする格好の「エクスプローラー」期間となるべきなのです。
次回は、そのための課題や方法について考えていくことにしましょう。